スキップしてメイン コンテンツに移動

5. 遠藤功『ざっくりわかる企業経営のしくみ』

経営やマネジメントについて、起業家や経営者はもちろん、ふつうのサラリーパーソンでも偉くなってくると、嫌でも知っていなきゃいけなくなる。ぼくは大して偉くもないが、ふとマネジメントに興味を持ったので、何事も基本からということで本書を手に取った。

 トヨタ自動車やソニーのような会社はなぜ存在しているのか。
 あらゆる企業がその存在を許されているのは、世の中に対して何らかの付加価値を生み出すからである。企業や人々はこの付加価値に対価を支払うことで、付加価値を生み出した企業は利潤を得る。それを再投資することで競争相手に対して優位性を構築することができる。
 この優位性の構築にとって重要なのが、人、モノ、金、情報といった経営資源を傾斜配分することである。限られた経営資源をあれもこれもと振り分けていては、ライバルとの競争に負けてしまう。資源配分は傾斜させてこそ意味がある。

 日立が復活した理由もここにある。
 かつて韓国勢などの台頭により収益低迷に喘いでいた総合電機メーカー・日立製作所は、2009年3月期には日本の製造業としては過去最大の7,873億円もの赤字を計上し、「沈む巨艦」と揶揄されていた。
 そこで日立の経営陣は経営の柱を「社会イノベーション事業」と位置付け、それに合致した事業のみを選択・強化した。テレビの自社生産からの撤退やハードディスク駆動装置事業の売却に踏み切った。また何でも自前で行うのが日立流だったのだが、必要に応じて他社との連携を進めるという脱自前路線を明確にした。例えば火力発電設備事業について、これまでライバルであった三菱重工業との事業統合を決断した。
 こうした選択と集中によって、日立は11兆円(2007年3月期)を超えていた売上高を9兆円(2013年3月期)にまで圧縮し、毎年5,000億円を超える営業利益を生み出すようになった。

 様々な経営者の格言に感銘を受けたり、週刊経済誌に目を通してビジネスの流行をチェックするのも大事だが、いま一度経営の基本に立ち返ってみるのもよいだろう。

目次

Ⅰ 変わり続ける時代の企業経営
Ⅱ 強烈な経営理念が組織を動かす
Ⅲ どこで、どのように戦うかを定める――戦略のマネジメント
Ⅳ 「売れるしくみ」をつくる――マーケティングのマネジメント
Ⅴ 戦略を実現する組織を設計し、運営する――組織のマネジメント
Ⅵ 企業は人なり――人材のマネジメント
Ⅶ お金の流れを管理する――資金のマネジメント
Ⅷ 戦略を「実行」する――オペレーションのマネジメント
Ⅸ 停滞を克服し、新たな成長を実現する――成長と再生のマネジメント

書誌情報

『ざっくりわかる企業経営のしくみ』
著者:遠藤功
発行者:斎藤修一
発行所:日本経済新聞社 日経文庫
2014年4月15日 発行
印刷:東光製版印刷
製本:大進堂
ISBN:978-4-532-11308-7

関連書籍

ドラッカー『マネジメント』
テイラー『科学的管理法』

コメント

このブログの人気の投稿

2. 立花隆『政治と情念』

角栄を奪い合う二人の女、眞紀子と佐藤昭。田中眞紀子とは何だったのか。佐藤昭とは何者か。田中角栄とは――。  日本の戦後政治は、ほぼ自由民主党に牛耳られてきた。いわば、ブロンデルのいう「優越政党を伴う多党制」、あるいはサルトーリのいう「一党優位政党制」である。  その戦後日本政治で絶大な存在感を示すのが、政治家・田中角栄である。  角栄は何をしたのか。  彼は、日本の総理大臣になった――。  最終学歴は高等小学校卒業(夜間の専門学校である中央工学校も卒業しているが、庶民アピールの意味も込めて高小卒としていた)でありながら、1957年に39歳で郵政大臣、62年に44歳で大蔵大臣、65年に自民党幹事長、71年に通産大臣に就任し、そして72年、54歳で総理大臣にまで上り詰めた。  宰相の地位に就くために、角栄はカネの力を存分に利用した。立花隆によると、72年総裁選の多数派工作のために使った総額は80億円だそうだ。その際、自身の政治資金団体で集めたお金の他に、保有不動産の売却、例えば東京電力に柏崎刈羽原発用地を売却するなどして、莫大な政治資金を捻出した。  興味深いのは、のちに首相になる中曽根康弘もこの総裁選への出馬を予測されるも、日中国交回復を果たすことを条件にいち早く田中支持にまわり、結果角栄を勝利に導いたのであるが、その際に7億円で買収されたのではないかということだ。中曽根は自身の回想録で、その際の金銭の授受を否定するも、立花は、7億円という金額はともかく、カネを全く貰わなかったというのはありえないという。そしてこの貸し借りは10年もの歳月を経て、82年総裁選に、角栄の支持を得て予備選を勝ち抜いた中曽根が総理の座に就くことで清算された。  コッポラの映画『ゴッドファーザー』では、冒頭にマーロン・ブランド扮するドン・コルレオーネに願い事を頼みに来た男が、お返しにいつか頼みを聞くという約束をして、何十年か経った後、「約束」を果たすためライバルのマフィアの親分の襲撃に加わり死んでいく。 「政治における借りと貸しの清算は、この話に近いところがあるんです。すぐには清算はせまられないが、何年も何十年もたってからせまったりせまられたりするということです。」(140頁)  彼は、日本を土建国家にした――。  角栄といえば、『日本列島改造論』を挙

9. リンカーン『リンカーン演説集』

誰しもが偉人と認めるリンカーン米大統領。彼の偉大さは、貧しい出自から努力して大統領にまで上り詰めたことのみならず、南北戦争という国難の克服や奴隷の解放を成し遂げたことにある。政治や国家、リーダーシップについて想う際、アメリカ大統領の原像としてのエイブラハム・リンカーンのことばを振り返ることは、いつまでも有用であり続けるだろう。  トランプが新たにアメリカ大統領になってから8ヶ月が経とうとしている。その間には様々な出来事があった。TPPからの離脱、イスラム諸国からの入国制限、アサド政権へのトマホーク攻撃等々。近頃は朝鮮半島の危機が続き、トランプも圧力をかけてはいるものの北朝鮮の核・ミサイル開発が一段落してしまい、国際世論は対話・平和路線、つまり北の核兵器保有容認の流れになりつつある。日米はこの流れに抗うことはできないだろう。  時評はさておき、トランプの所属する共和党で初の大統領であるリンカーンの話をしよう。彼といえば、奴隷解放宣言や「人民の、人民による、人民のための政治」と言ったゲティスバーグ演説が有名である。ただリンカーンといえばコレといった、教科書的脊髄反射的な答えを述べればよいといった理解ではなく、その背景を少し確認してみたい。 ジョージ・ピーター・アレクサンダー・ヒーリー 画, Abraham Lincoln , 1869年  リンカーンの主要な業績は奴隷解放であるが、アメリカ合衆国の奴隷制度は、白人がヨーロッパから渡ってきた直後から始まった。白人入植者たちはインディアンを殺害するなどして追っ払い、やがて植民地であることに嫌気がさして、ついにイギリスに対する独立戦争(革命)を始める。そして1776年にアメリカ独立宣言を行うが、その中で「われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ」と謳った。この「すべての人間」の範囲について、白人の他に黒人も含めるのかどうか議論の的になった。  リンカーンは言う。「われわれの国家(ガヴァメント)が建設された折には奴隷制度が布かれていました。われわれはある意味で奴隷制度の存在を黙認せざるをえませんでした。一種の必然であったのです。われわれは戦争を経、しかるのちに自

1. つんく♂『「だから、生きる。」』

ぼくは、つんく♂の作る曲が大好きである。乙女チックな日常と、地球、宇宙、世界、人生、平和、歴史、愛とが繋がっている歌詞。たとえそれがいくらデタラメでも、自在に操られたメロディーとリズムとハーモニーで、たちまちつんくワールドへ吸い込まれてしまう。  2015年4月4日、母校・近畿大学の入学式にサプライズとして現れたつんく♂は、喉頭がんの手術で声帯(喉頭)を全摘し、声を失ったことを初めて明かした。このニュースはテレビや新聞などで大々的に取り上げられ、ぼくもその日のNHKニュースですぐに知り、衝撃を受けた記憶がある。  つんく♂といえば、シャ乱Qのボーカルで、彼がプロデューサーとして手掛けたモーニング娘。などのアイドルが、今世紀初頭に一世を風靡したことは、現在20代以上の日本人なら誰もが知っていることだろう。  そんなつんく♂が、2014年の10月に声を失ったのだ。なんという悲劇。あんなに歌にこだわりを持っていたつんく♂が、もう永遠に歌えなくなるとは。  本書は、つんく♂が2014年の2月に喉頭がんの診断を受けてから、トモセラピーによる放射線治療、分子標的薬による抗がん剤治療、完全寛解(かんかい)宣言、喉頭全摘手術、近畿大学入学式までの一連の過程について記されている。同時に、1992年の上京からモーニング娘。の誕生、ハロー!プロジェクトの発展、井出加奈子との出会いから結婚、父親になり子育てに勤しむ様子など、彼の前半生が笑いあり涙ありで綴られている。ハロヲタ(ハロプロのファン)ならぜひ一読すべき内容だろう。  そういうぼくもハロヲタの一人なのだが、本書で見つけた興味深いエピソードをいくつか紹介しよう。  まず一つ目は、スマイレージ(現・アンジュルム)のインディーズ3rdシングル「スキちゃん」の歌詞について。結婚して子どもを持ったつんく♂は、「妻は家を守って」という守旧的なスローガンから「ジョンとヨーコみたいに」へと、子育てに積極的に関わり家族との時間を増やすという「人生レボリューション!」を果たした。それから「たまの休日にフードコートでラーメン食って、スーパーで買い物してポイントためるのも、実はロックじゃないか! といつの間にか思うようになっていた」(156頁)らしく、「フードコート」という言葉が歌詞に入ったとのこと。またモーニング娘。の「気まぐれプリンセ