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4. 網野善彦『歴史を考えるヒント』

日本という国の名前が決まったのはいつか。この素朴な問いに答えられない人は多いだろう。ぼくもそうだ。ではどうして答えられないのか。学校で使われてきた日本史の教科書がけしからんのではないか。しかしそれを問う前にまず、日本について知る必要があるだろう。

 この網野善彦による『歴史を考えるヒント』については、石村清則當山日出夫木偶hachiro86など数々のレビューがすでにネット上にあるので、ぼくがわざわざ書くこともないかもしれない。だから網野善彦の本を今回初めて読んだという、網野史学ど素人のぼくは、ただ思いついたことをだらだらと書く。
 そもそもぼくがこの本を知ったきっかけはこの動画で取り上げられていたからである。そこでは網野善彦の本文と與那覇潤の解説の内容を、東浩紀と河村信が褒めていた。それを見たかつてのぼくは、早速Amazonで注文したものの、積読(つんどく)状態になっていたのだ。今回本書を手に取った理由は、最近山本七平の『現人神の創作者たち』を少し読んでいて、日本について興味があったからだ。
 結論から言うと、『歴史を考えるヒント』はとてもおもしろく、ぜひ多くの人に薦めていきたいような本である。1997年に新潮社主催で行った連続講座での内容をまとめたということもあり、読者に優しく語りかけるような文章で、大変読みやすかった。一方で内容はというと、「百姓」ということばには本来「農民」の意味はなかったとか、13世紀以降の農本主義と重商主義の対立とか、衝撃的でありかつ日本史に対して別の見方を示すものであり、自分が知っていたことと全く違う世界に出会うという読書の醍醐味を味わった気がした。
 網野はまず、「日本」という国名についてから話を始める。「日本という国名が決まったのはいつなのかといいますと、現在の大方の学者の認めるところでは、浄御原令(きよみはらりょう)という法令が施行された689年とされています。」(15頁)対外的には、それまで「倭」と言っていたのが、702年に遣唐使の粟田真人(あわたのまひと)が当時の周の皇帝・則天武后に対して「日本」の使いであると述べた。
 ここで、「日本」ということばの意味について考える。「日本」ということばの背後には、ほぼ確実に「日出づるところ」という意味がある。この「日出づるところ」とは東の方角のことであり、何に対しての東かといえば、当然に中国大陸の唐帝国に対しての東ということになる。つまり「日本」という国号は天から授かったようなものでは全くなく、中国大陸の帝国を強く意識したものだということである。しかし見方を変えれば、それまで「倭」と名乗り中華帝国の朝貢国としていたのをあえて「日本」と名乗ることによって、自らの帝国をつくるのだという姿勢を明確に打ち出したとも言える。それから日本は小帝国として東北と南九州を侵略していき、新羅への侵攻を計画したこともあった。そして今でもぼくたちはこの国号「日本」を使い続けている。
 その後は「関東」「関西」「九州」といった地域名、「人民」「国民」「市民」「庶民」「常民」「平民」といった普通の人々を指すことば、「百姓」ということばの意味の変遷、「穢多」「非人」といった被差別民の呼称など、日本のことばの歴史を丹念に読み解いていく。

書誌情報

『歴史を考えるヒント』
著者:網野善彦
発行者:佐藤隆信
発行所:株式会社新潮社 新潮文庫
2012年9月1日 発行
印刷所:大日本印刷株式会社
製本所:加藤製本株式会社
ISBN:978-4-10-135661-7

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